レバノン映画「Where To? 」(1957)

 今や世界的に活躍する映画監督を輩出するレバノンだが、その地で制作された最初の映画が移民に関するものだったということはあまり知られていないかもしれない。イタリア人のジョルダーノ・ピドゥッティ監督が1929年に制作した「エリアス・マブルークの冒険」、アメリカに長期滞在して帰国した移民を描いたサイレントコメディだった。この作品以来、海外移住や、移民とその帰還は、レバノン映画でしばしば扱われるテーマとなった。

 今回見たジョージ・ナセル監督の「 Where To?」もこの流れの中に位置する作品だった。レバノンの貧しい農村に生きるキリスト教徒の農民ハミードは、妻の制止をふりきって単身ブラジルに移住する。より良い暮らしを求めての決断だったが、その後ハミードからは故郷に何の便りも(もちろん送金も)ない。残された妻は、二人の息子、サイードとファリードを抱え、必死で生き抜く。いつしか20年の歳月が過ぎてゆき…。

 アメリカで映画を学び、レバノンに帰国した監督の長編第一作ということで、全体的に素朴な作りで、静かな哀しみに胸を浸される映画だった。ブラジルへのレバノン移民というと、カルロス・ゴーン氏のことが思い出されるが、移住によって出世したり成功したりする人ばかりでなく、失敗した人もいただろうし、また、単身で移住した男性の背後には、故郷で辛酸をなめる家族がいたことを、改めて考えさせてくれる。

 映画は国内ではほとんど上映されなかったらしいが、国際映画祭では評判が良かったようだ。結婚式のシーンなど、レバノンの伝統的なダンス(ダブケかな?)や剣舞がふんだんに盛り込まれていて、映像としても貴重だと感じた。今回、MUBIであと5日…という所で見つけて滑り込みで視聴できたのだが、いやはや、本当にありがたいことだった。

アラビア語の原題も「どこへ?」

 



 

 


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