チュニジア映画「Hedi 」(2016)

 チュニジア映画には、マティズモ社会の中で傷つく男性を描いた名作「灰の男」(1986)があるけれど、これは母親に抑圧され傷つく男性を描いた作品だ。

  25歳のハーディーはプジョーの冴えないセールスマン。生活の全てを母親に仕切られ、家族の決めた相手との結婚式を控えている。ハーディーは母からいつも兄アフマドと比較され、感情や意見を表すことができなくなっている。本当は絵を描くことが好きで、作品を発表したいのに、その夢をかなえられそうにもない。

 そんなハーディーが、仕事先のマハディア(地中海沿岸のリゾート)で、リムというオープンマインドで魅力的な女性と出会う。次第に変わっていくハーディー。果たして自分のために人生を歩んでいくことができるのか…。

 演出家の竹内敏晴が、『教師のためのからだとことば考』の中で、日本の劇(ドラマ)は、ヨーロッパ流の「明確な目標を持って行動する」というストーリー展開ではなく、主人公が模索して模索して最後に選択し、そこでドラマが終わってしまう、つまり非行動のまま終わる形になりやすい、と述べているが、まさに「選択に至るまでを描く」作品だ。ハーディーがどんな決断を下すのか、最後の瞬間まで目が離せない。

 リムとの出会い以降の展開には疑問な部分もあるが、とにかくチュニジアの空気感が絶妙に表現されていて、見ていて懐かしさでいっぱいになってしまった。そこはかとなくジャスミン革命とその後のチュニジアの歩みについても言及されているし、ハーディーが自己を解放する場がスーフィー教団の集会だったりする所も、欧米の観客への配慮が行き届いているなと思った。

 それにしても「あなたのために良かれと思ってやったことよ」とか、「そんなに傷ついているなんて知らなかった」とか、抑圧的な親の言うことは洋の東西を問わず同じなんだな…。ムハンマド・ベン・アティーア監督の長編第1作。この作品はMUBIで見たのだが、MUBIにはこの監督の次の作品も出ているから、近々見てみようと思う。

原題は「いとしのハーディー(We love you, Hedi)」と言ったところかな。


 




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