エジプト映画「Dark Waters」(1956)
ユースフ・シャヒーン監督の「カイロ中央駅」(1958)はエジプト映画史上に残る大傑作だけれど、その2年前に作られた作品。アラビア語の原題は、「港の争い」という意味。
港町アレクサンドリアに、船乗りのラガブ(オマー・シャリフ)が3年ぶりに帰ってくる。ラガブは従姉妹のハミーダ(ファーティン・ハマーマ)との結婚を望んでいるが、ハミーダは大会社社長の息子マムドゥーフとも仲よさげで、ラガブは嫉妬にかられる。一方で、マムドゥーフの父の経営する会社の内紛のために、港湾労働者たちが分裂して争うようになり、ラガブも巻き込まれてしまい…。
それなりに有名な1954年の「渓谷の争い」(上エジプトの農民を描く)と、大傑作の「カイロ中央駅」(カイロ駅のポーターを描く)の間の時期に作られた作品で、内容もこれらと同じ「女性1人に男性2人」と「貧困・労働の問題」を組み合わせたものなので、あまり注目されてこなかったのもわかる気がする。
「港の争い」の中で、主人公は若さゆえに誤解をしてしまったり、貧富の格差に対して憤ったりするが、なにしろオマー・シャリフなので、とにかく全てがキラキラして美しい。
これが「カイロ中央駅」になると、性的に抑圧された足の不自由な主人公を監督自身が演じていて、狂気がより内に、内にと向かい、陰惨になっていく。そうすることで、社会の近代化が進めば進むほど置き去りにされる個人の内面が、恐ろしいほどうまく表現された感がある。「港の争い」を見ることによって、監督は「カイロ中央駅」に向けて何か腹をくくって決断する必要があったんだな、そしてその決断は正しかったんだな、と考えさせられた。

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